第六回 中林くみこ さん (語学学校経営)

/ 2013年6月10日/ カナダで活躍する日本人


カナダで活躍する日本人、第6回目は2009年にトロントで少人数制をモットーに語学学校を立ち上げ、自らも日本人の英語力向上に情熱を傾けるDEVELOP LANGUAGE INSTITUTEの中林くみこさん(以下敬称略)にお話を伺いました。


QLS : 本日はお忙しいところお時間を頂きありがとうございます。ではまず学校を立ち上げたいきさつについて教えてください。

中林 : はい、実は当時留学センターのカウンセラーとして働いていて、その仕事の一環としてトロントの語学学校を見学する機会があったんですが、正直これじゃどこに行っても伸びないなと思ったんです。大きい学校だとひとクラス15人とか20人の大人数が詰め込まれ、南米やヨーロッパ出身の学生がずっと話しこんでいて、日本人の生徒さんはただ自分の番が回ってくるのを待っているという光景を数多く目にしました。留学センターではよく生徒さんから英語が伸びないけど、どうしたらいいですか?という相談を受けていたのですが、紹介したくても紹介できる学校がない!というのが実態だったんです。そこで、それなら自分でクラスを作ってしまった方が早いと思い、最初は留学センターを間借りして、夜間の少人数の英語クラスを始めました。すると意外に需要があることがわかって3カ月くらいたった後、それじゃスペースを借りて本格的に始めようということになりました。なので、会社設立のために周到な準備をしたというよりは、流れに任せて勢いで始めてしまった感じです。

QLS : そうだったんですね。ところで話が飛んで申し訳ないですが、中林さんご自身はどうやって英語力を伸ばされたんですか。

中林 : 私がこれまで一番英語力が伸びたと思うのは、実はビザの関係で働くことも、学校に行くこともできず、家でひたすら本ばかり読んでいた時期です。その引きこもり(笑)の1年が過ぎて英語力が格段に伸びたのを覚えています。この経験から英語力はアウトプットの練習量ではなく、インプットが必要なんだと実感しました。割合でいうとインプットが10あってやっと1のアウトプットを引き出せるということです。人によってはドラマや映画をたくさん見てインプットを増やす人もいますが、いずれにしてもインプットなしでどれだけネイティブとラングイッジ・エクスチェンジをしても英語は全く上達しないと思います。

QLS : ということは、アウトプットができるようになるにはその10倍のインプットが必要ということですね。気が遠くなりますね。(笑) すみません、本題に戻りますが、ビジネスを始めて一番苦労されたことは何ですか。

中林 : 苦労と言うと真っ先に頭に浮かぶのは講師の採用です。本当に、ほんとーに大変です。(笑)募集広告を出すと70人くらいからレジメが送られてきて、そのうち15人くらいにインタビューをするんですが、実際に採用できそうなのは1名いるかいないかです。デモレッスンをしてくださいと言ったらそんなことは聞いてないと突然怒り出す人がいたり、インタビューに遅刻してくるのも当たり前、日本ではあり得ないことが日常茶飯事に起こります。無事採用できたとしてもまさにギャンブルです。レッスンプランに沿って授業をやってくれない、平気で遅刻する、十分に準備してこない、準備を周到にすればパフォーマンスが上がるからと説得しても、じゃあパフォーマンスを上げるために準備をすればするほど時間あたりの給与が下がるというのはどういうこと?と切り返されたり・・・世界最高水準のサービスに慣れ親しんだ日本人の生徒さんに対して、どうしたら質の高いサービスを提供できるのか?と試行錯誤の日々でした。

QLS : 御苦労が目に浮かびます。実際この問題はどうやって解決されましたか。

中林 :さっき言った授業時間以外の準備についてもめた一件以来、カリキュラムは全て私が準備し、その通りやってもらうようトレーニングしたり、分刻みのレッスンプランを作成して、教材も全て学校で指定していました。私も日本人で英語を苦労して身につけた一人ですので、日本人の生徒さんが学校に求めるものがよくわかるので、それを実現しようと、あの手この手で説明を試みたわけです。それでもその通りやってくれない、できないカナダ人講師が多かったので大変でした(笑)。たぶん、本質的な部分でカナダ人は日本人の勉強の仕方を理解できないのだと思います。今では、日本人でほぼバイリンガルなみに英語力が高く、教えた経験も長い講師のみを採用しています。日本人講師の熱心さはとてもカナダ人講師の比ではありません。日本人の生徒さんを本当の意味で理解し、英語力を伸ばそうという熱意を持ち、真剣にサポートできるのはやはり日本人講師のみだと実感しています。

QLS : 日本人の先生が教えるクラスということで、マーケティング面での苦労はありますか。

中林 : 確かに日本人の生徒さんの中には、日本人が教えるクラスについて最初少し戸惑われる方もいらっしゃいます。でも、実際にクラスを受けていただくと、その良さを実感していただけるようです。たとえば、日本語で文法や単語のニュアンスなど細かいところまで指導できたり、日本語特有の言い回しを英語でどのように言うのかを知っていたり、自分が英語を学習して習得してきたため、生徒さんのロールモデルとして、学習方法を詳しくアドバイスできるということもありますし、何より、生徒さんのことを真摯に考え、日本人ならではのきめ細やかなサポートができるというのが一番のメリットだと思っています。また、うちは目的別のニッチなクラスに特徴があり、例えば現在主力コースの一つになった翻訳家養成コースは翻訳会社と提携してインターンシップの機会を提供するなど、将来のキャリアと直結しているので、そういうコースではクラスメートの国籍などは全く問題になりません。最近始めたIELTSコースも同様だと思います。試験対策の勉強は特に、日本人講師にしっかり教えてもらったほうが良いと思われる方が多く、最初から日本人講師を指定して来られる方も多いです。

QLS : IELTSコースは現在モニタークラスが終了したところですが、感触はいかがですか。

中林 : このコースは移民申請のためのスコア取得というはっきりした共通の目的があるので、とても活発なクラスになりました。全員がほぼ毎回出席し大量の宿題をこなすハードなコースでしたが、受講後のアンケートをみると“日本語で解説してもらえたのでより深く理解できた”、“きめ細かいカウンセリングが役立った”、“独学は最初から無理だったと実感させられた”などコースに対するポジティブなフィードバックに満足しています。あと、私もこのコースを担当する前に自分自身IELTSを受験して思ったのですが、このテストはTOEICなどと比べても英語力を総合的に診断する上で大変よくできた試験だと思います。試験対策ということでなく、英語力を全体的に底上げするのに最適なので、特に理系のプロフェッショナルな職業に就いている方でスピーキングやライティングを伸ばしたい方などもこの試験でスコアを上げることを目標にして英語学習をされるととても力がつくと思います。

QLS : 今回弊社からIELTSのコースを作ってくださいとお願いしたところ、まず中林さん自身が受験してみてから決めると言われたのと、最初のセッションでは外部の講師ではなく自らコースを担当されたのがとても印象的でした。

中林 : うちは決してマーケティングで勝負するのではなく、提供するコースの中身で勝負する学校だと思っています。なので、私自身が納得するコースでなければやりませんし、どういう学校にしたいかという点は最初からはっきりしているので、迷ったときにはこの自分自身の軸がぶれることがないように気をつけています。とにかく私自身、今自分のやっていることが大好きでとても興味があり、いつもどうしたら日本人の英語力を伸ばせるのかを考えている状態です。

QLS : 最後に中林さんから起業を目指す方へのメッセージをお願いします。

中林 : 日本には優れた技術、文化があるにもかかわらずそれを十分世界に向けて発信できていないという現実がありますが、やはり良く言われるように日本人の英語力不足が一因であるのは残念ながら否めないと思います。日本人はいいものを持っているのにとても損をしていると思うんです。私としてはこの点で少しでも力になれればと思っています。最近私が教えた生徒さんの中に、将来カナダで自分のカフェを開く夢を持っている方がいます。海外で起業して、しかも軌道に乗せていくのは決して簡単ではないですが、日本人が海外で活躍できるように私にもできることを考えて、できるだけ力になれればと思っています。やりたいと思うことがあれば人生は一度きりなので、やってみてはどうかと思います。完璧な準備をしてからと思っても、いざ始めてみるとわけのわからないこと(笑)が次々起こるので完璧な日など永遠に来ないのではと最近つくづく思います。

QLS : 共感するコメントを多々頂きました。本日は貴重なお時間ありがとうございました。