第十五回 中込正志さん(Neo Coffee Bar経営)

/ 2016年6月6日/ カナダで活躍する日本人


カナダで活躍する日本人、第十五回目はトロントダウンタウンのオフィス街近くにある人気カフェ、Neo Coffee Barを訪問し、共同経営者の中込正志 さん(以下敬称略)からお話しをおうかがいしました。中込さんは日本、カナダでバリスタ、ペーストリーシェフとして経験を積まれた後、もう少しカナダに残ってやってみたいという気持ちから、数年前に弊社のサポートを受けて永住権を取得されました。


QLS: お久しぶりです。すごく流行ってますね。土曜日の朝早くなのでもっと静かだと思ってました。

中込: 実はうちは土曜日が一番忙しいんです。確かに平日はジョージブランカレッジ(GBC)のスタッフやオフィス勤務のいわゆるヤングプロフェッショナルのお客様が多いんですが、土曜日は、ローカルのお客様やツーリスト、セントローレンスマーケットに買い物帰りに立ち寄る人、GBCの週末のクラスに通う人など様々な人たちが集まってきて、平日以上に忙しくなります。以前働いていたカレッジストリートのカフェはどちらかというと若くてヒッピーな人たちが多くて、それはそれで面白かったんですが、自分も年齢的に少し落ちついてきたので(笑)、今のこの客層をとても気に入っています。

QLS: 最初からターゲットの客層はイメージしていましたか。

中込: いいえ、GBCが近いので学生が中心になるんじゃないかと思ってました。でも実際は、皆Tim Horton’sに流れているようですね(笑)。僕自身はクオリティーの高いものを出したいというこだわりがあって、例えば、ケーキ類に使う卵、砂糖、小麦粉は全てオルガニックの材料を使っているんです。そうするとどうしても材料費が通常の3倍くらいになってしまいます。また、ミルクも最近オルガニックに変えたのでラテの値段も上げざるを得なくなりました。それによって常連のお客様の中には離れてしまった方もいますが、大半のお客様が理解を示してくれて、そのまま引き続き毎朝来てくれることからも、自分の決断は間違っていなかったと思います。これからもこの路線でいきたいと思います。

QLS: カフェを自分でやりたいと思ったきっかけは何ですか。

中込: 2009年にカナダに来た直後から日本のコージーコーナーやコンビニにあるような、ボリュームはあるけど重たくなくて、甘すぎないケーキが食べたいなと思っていました。それで、当時働いていたカフェのオーナーにプロダクトラインとして加えることをずっと提案していたんですが、オーナーはジェラートを中心に展開したいということで、残念ながら意見が合いませんでした。それで永住権をとってから、商品のラインナップも含めて自分が思うようなお店をカナダで始められたらいいな、と思うようになりました。

ジャパニーズペーストリーとしてロールケーキとシュークリームを選んだのは、単に自分が好きなペーストリーだったこともありますが、当時(今も)チャイナタウンで売られているロールケーキは乾燥してパサパサしているものが多く、また、シュークリームの味も製法(クリームの注入のしかたなど)も日本で自分が作っていたのとは異なっていて、自分だったらもっとおいしい商品を提供できるのに、と思っていました。

QLS: お店を立ち上げる過程で一番苦労したことは何ですか。

中込: もともとオフィススペースだったところをカフェに改造することになったのですが、構造的にユニークというか、変なところに柱があったり、壁が湾曲していたりしたので、お店のデザイン、レイアウトを最終的に決めるのに大変苦労しました。また、建築士とのやりとりや、コントラクターへの指示など、これまで経験したことがなかったのでかなりのストレスになりました。結果的に満足のいくお店ができたので良かったす。開店してからもしばらくの間は休みなしでしたが、ようやく任せられるスタッフが育ってきたので、休みをとることができるようになりました。

QLS: よくある縦長の平板なスペースじゃないところが、むしろアーティスティックに見えますね。とても機能的にテーブルが配置されていると思います。それとケーキを作っているスタッフがガラス越しに見えるのは、トロントにはあまりないスタイルで新鮮ですね。

中込: 僕はキッチンにいるシェフも時にはキャッシャーもやり、お客様と直接会話できるようなお店を目指しています。なので、うちのペーストリーシェフは英語が必須です(笑)。これまでカフェでの経験が長かったせいか、常連のお客様にまず名前を憶えてもらって、徐々に関係を作っていくのがこの仕事の醍醐味の一つだと思っています。スタッフにもせっかくカナダに来たのだから、その楽しみを体験して欲しいです。まだオープンして9カ月ですが、徐々にこのカフェを拠点にしたコミュニティーを作っていければと思っています。

QLS: 今日は忙しい土曜日に時間をとらせてしまって申し訳なかったです。カナダの場合、フレッシュなものを買うかどうかは自己責任ですが(笑)、こちらのお店なら安心です。作りたての抹茶小豆ロールケーキ、とてもおいしかったです。ありがとうございました。

トロントでは居酒屋、ラーメン店に続いて日本のペーストリーショップが話題になることが多くなっていますが、中込さんのお店はあくまで北米のカフェを基調として、日本を過度にアピールしていないところが逆に現地の人を惹きつけているように感じました。日本のペーストリーは一過性のものでなく、中込さんのような自然体のオーナーシェフの尽力で今後じわじわと広がっていくような気がします。